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『文章教室』金井美恵子 [本]

『文章教室』を再読。
あ~やっぱり面白い。

主婦の浮気に夫の浮気、娘の中絶に次の恋の顛末、文章教室講師の浮気、と書くと世の中って浮気かー、と閉口するのだが、主人公の主婦が文章教室に通うという、それだけでぎょっとするような陳腐な設定で――誰も死なない(一応ひとり発作で老人が死ぬが極めてありふれた死に方)、誰も離婚しない、誰も覚醒しない――なにも事件を起こさないなかでこれほど面白く小説を書ける人はいない。

こういう日常小説がいちばん面白い。
すべてはディテールにある。ディテールのぎっしり詰まった一文を堪能するだけでもこの小説を読んだことになるし、全体を読み終えたあとの、脱力感はまた格別。
大体、文章教室講師で小説家でもある男の考えることが、たまらなくくだらなくて、こういうところから現実の小説も生まれてるんだろう、と深くうなずかずにいられない。

ひとつケチをつけるとすれば、映画『ショートカッツ』のように登場人物がどこかでつながっていたという関係性が説き明かされていく様子がこの小説の流れをつくるのだが、みんなつながりすぎということか。しかしそれも、あまりのディテールの面白さに、そういうこと(設定)だと著者が言うなら引き受けよう、という気にならされたまま、ぐんぐん話は展開していく。

それで、結局このブログもそうだし、文章教室の主婦もそうだし、文章教室の講師も、著者もそうだけど、みんな、なにか書きたいわけだし、ほとんどそれは、みんな話したがっている、と指摘した小説家村上某とも似ていて、これまたありふれた欲望なのだと思わされる。


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